「そうだ、今度は田中さんがコーヒー淹れる?」

「……え、なんで」

「だって、田中さんの方が淹れるの上手そうだから。色々語ってたでしょ」


別に、語ったつもりはない。ただ気になって思わず言ってしまっただけだ。


「嫌だ。いい」

「まあ、そう言わず。俺、プロが淹れるコーヒーが飲みたい」

「お店に行け」


ていうか、プロじゃないし……と零したところに、「あっ、お湯が」という田辺の声が微妙に重なる。


「田辺くんってさ、学習能力ないねって言われない?」

「学生時代は一度も。社会人になってからは、容量がいいで通ってるから」


容量がいいことは、学習能力が高いこととイコールなのだろうかと考えながら、真帆はヤカンの蓋へと手を伸ばす。
それを見た田辺はぎょっとしたように目をむいて「ちょっと!」と慌てたように真帆の腕を掴んだ。


「何してんの!?」

「何って……蓋を開けようと」

「だからってそこから手を伸ばしたら危ないでしょ。てか、まだ火も止めてないんですけど!」


言いながら、田辺は片手で真帆の腕を掴んだまま、もう片方の手で火を止める。
しゅんしゅんとヤカンの口から噴き出していた湯気の勢いが収まって、ゆるゆるとしたものに変わる。