「田中さんのペースに合わせたいって思ってるよ」


咄嗟に、「何が?」と首を傾げた真帆に、田辺は笑う。


「ほんと、田中さんは恋愛系がダメダメなんだね。まあ、慣れていらっしゃらないのはよくわかってたけど」

「あれは、田辺くんが原因なのであって慣れてないとかじゃないから」


田辺の家で何度か“慣れてない”と小馬鹿にされたことがあったが、それは真帆の恋愛経験が原因ではないと思っている。


「俺が原因?それはつまり、相手が俺だったから、ドキドキしちゃって慣れてない感じになっちゃったってこと?へー、それはいいことを聞いた」

「……ちょっと待って、そんなことは一言も言ってない」


なんだか、田辺に都合がいい、つまり真帆にとってはとても都合の悪い展開に進みそうな気配がしている。田辺の笑顔が、それを物語っている。


「ていうか!さっき私のペースに合わせるって」

「あれ?何のことかわからないって顔してたのに、ほんとはわかってたの?」

「今わかったの!」

「そっかそっか。もちろん、田中さんのペースには合わせるよ。合わせつつ、俺は俺のペースで進むけどねー」

「それのどこが合わせてるのよ!」


田辺がわざとらしい程の笑みを浮かべている時は、ろくなことがない。