「な、名前は、おいおいって約束だろ!」

「これまで呼び慣れてきたものを、いきなり変えるのは難しいって言い分はよくわかるよ。わかるけど、この調子だと結婚してもあたしのこと“島田”って呼びそうだから」

「……結婚、するまでには直すだろ。でも!大学生の内は学生生活に専念して、結婚に関する諸々は卒業してからって約束しただろ」

「“婚約者です”って紹介してくれるくらいはいいじゃん!」


二人の言い合いは、揉めているというより一緒に過ごした時間の長さを感じられるような、お互いをよくわかっているからこその言い合いであるように感じられるから、大丈夫だろうか……なんて心配になることもない。
田辺と岡嶋が言い合っている時も、真帆は同じような感覚で二人を眺めていた。
ただその時は、同じく田辺におちょくられる身として、岡嶋への同情心は拭えなかったが。


「俺はさ」


二人のやり取りをぼんやりと眺めていた真帆の耳に、隣から声が聞こえてくる。
前方の二人が仲良く言い合いを続けていることから察するに、おそらく隣にいる真帆にしか聞こえていない田辺の声。