「なに?田中さん、俺の顔じっと見て。あっ、もしかして!」

「惚れてないからね、言っておくけど」


先手を打ってそう返すと、田辺がちょっぴり悔しそうな顔をする。あまり見られない表情なので、勝ったような気分だ。


「残念だったな、田辺」

「……慰める気があるなら、笑いながらはやめてもらえますか岡嶋さん」


二人のやり取りが聞こえていたらしい岡嶋が、隠し切れない笑みを零しながら田辺を慰める言葉を口にする。もちろん田辺は不服そうだ。


「島田ちゃん、今から岡嶋さんの面白失敗談を話してあげる」

「ええー、なになに知りたい!」

「おい、なんだ面白失敗談って!つうか、お前ら距離縮めるのが早過ぎるだろ!」


確かに、さっきまで田辺は島田のことを“さん”付けで呼んでいたのに、“島田ちゃん”になっているし、島田の方も田辺に対する敬語が取れている。


「二人で出張に行った時の話なんだけどね――」

「島田!ほら、ピザは熱いうちに食った方がいいぞ」

「ちょっと、遮らないでくださいよ岡嶋さん」

「お前もピザを食えピザを!田中さんもどうぞ」

「え、あ、どうも……」