「せっかくだし、この機会に田辺くんも私に言いたいことがあったらどうぞ。今なら、お互い様ってことで怒らずに聞くから」


真帆が暗に示しているのは、全ての元凶であるあの夜のこと。
悪い冗談なんだろうなと思ってはいるものの、やはりそこは田辺の口からはっきりと真実を聞いておきたい。


「田中さんに言いたいことか……」

「あるでしょ?」


もったいぶったように悩む素振りを見せる田辺。


「そうだね、言いたいこと……」

「あるんでしょ?あるんだよね」


つい詰め寄りそうになってしまった真帆は、ハッとして膝の上の紙袋とそこから溢れて散らばったお菓子を眺めることで心を静める。
このおバカな量のお菓子には、怒りたくなる気力すら奪う効果があるようだ。


「うん、……本当はもっとちゃんとした形で言いたかったんだけど、田中さんがそこまで言うなら」


ようやく腹を決めた様子の田辺が、「田中さん」と改まったように名前を呼んで真帆に向き直る。
その際、自分で並べたお菓子が邪魔になって一旦寄せるという間抜けなひと手間が加わったが、そのあと真っすぐに真帆を見つめた田辺の目は真剣そのものだった。
その真剣さに、真帆にも少しばかり緊張が走る。