「そうじゃなくて、いや、それもわかったけど、こんなに大量に買ってきたのはどうしてかって訊いてるの」


真帆の膝に乗った袋をガサゴソとあさり、また中身をぼとぼと落としながら、田辺が「それは」と口を開く。


「田中さんの思い出を、上書きしようと思って」


袋の周りにまき散らした焼き菓子と、袋をあさって取り出した焼き菓子とを、田辺は自分と真帆との間に並べていく。
当然のように疑問符をいっぱいに浮かべて首を傾げる真帆だが、田辺の笑顔は崩れない。


「このお店は田中さんにとって、泣いちゃうくらい悲しい思い出になってるわけでしょ。だからそれをね、俺との楽しい思い出に変えちゃおうってこと。今度からは、このお店を見ても悲しくならないように、この大量のお菓子を思い出して、楽しい気持ちになれるように」


田辺と真帆の間には、全て種類の違うお菓子が所狭しと並べられている。それでもまだ真帆の膝にある袋には、焼き菓子が詰まっている。
袋の中と、二人の間に並べられたお菓子を順番に見て、最後に田辺の顔に視線を移したら、なんだか可笑しくなって思わず真帆は笑ってしまった。