「いやあ、お店自体は空いてたんだけど、ステージの方がすっごく混んでてさ。しかもほら、帰ってくる時はステージに向かう人の波に逆らってこないといけないでしょ。だから時間かかっちゃって」


お待たせ、と笑みを浮かべる田辺は、持っていた紙袋を真帆の膝の上に置く。その僅かな衝撃で、また数個中身が零れ落ちる。
拾ってまじまじと眺めて、それを袋に戻しながら真帆は隣に腰を下ろす田辺へと視線を移す。


「それで、この大量のお菓子はなに?」


田辺が袋一杯に買ってきたのは、真帆の中に悲しい思い出として残っているあのコーヒー屋の焼き菓子だった。
透明な袋に個包装されたパウンドケーキやマドレーヌ、フィナンシェやクッキーといったお菓子が、紙袋にこれでもかと詰まっている。


「大量のお菓子ってわくわくするよね。あと、ここにあるの全種類くださいって言うのも、びっくりした店員さんの顔も爽快だった」


楽しそうな田辺の笑顔に、真帆はため息を一つ。