「なんで泣いてたのって、訊いてもいい?」


その問いかけもまた、いつもはないものだったので、その気遣いを素直に受け取れない真帆は、若干むくれながら答える。


「……いつもはひとの気持ちなんてお構いなしのくせに、なんで今日に限って訊くの」

「俺ってこう見えて空気は読める方なんだよ?でも田中さんが、そういうのはいらないって言うならやめるけど」


しばしむくれたまま黙り込んでいた真帆は、両手で包み込むようにして持っていたカップにおもむろに息を吹きかけると、ほかほかのホットチョコレートを一口飲んだ。
その甘さがじんわりと体に染み渡ると、また涙が込み上げそうになる。


「……コーヒーを売ってたキッチンカーがあったでしょ」


黙っていると涙が出てきてしまいそうだったから、唐突に真帆は話し出す。


「あのキッチンカー、全国どこのイベントにも出店するから、こっちに戻ってくる前に何度か利用したことがあるの」


“美味しいコーヒーを売っているキッチンカーがある”――そう言って最初に真帆にその存在を教えたのは、彼だった。