「ちょっと待って!それはずるいでしょ」

「いやずるくはないでしょ。俺は純粋にいちお客として、新しいお店の開拓を――」

「嘘をつくな。絶対邪魔しに来るつもりでしょ!」

「邪魔とは心外だな。田中さんの頑張っている姿を見るついでに、お店の売り上げに貢献するだけだよ」


にっこり笑うその顔が、真帆にはどうしようもなく胡散臭く思えて仕方がない。


「田辺くんは信用ならない。特にその笑ってる顔が噓くさ過ぎる」

「え?俺の笑ってる顔が好き過ぎる?」

「言ってない!!」


楽しそうに笑う田辺は、完全に真帆で遊ぶ体制に入っている。そういうところが嫌なのだと言ってやろうとしたが、声を出す直前で真帆は固まった。
コーヒーカップ、サーバー、ポット、コーヒー豆など、コーヒーにまつわるものが描かれた可愛らしい車体、それだけでも心がざわつき始めたのに、そこで買ったばかりのドリンクカップを手に振り返った男性を見た途端、真帆の心臓がドクンと大きく音を立てて鳴った。

その男性は、きょろきょろと辺りを見回した後、真帆の方を見てホッとしたような笑みを浮かべ、片手をあげる。

――「真帆」

聞こえるはずのない声が聞こえたような気がして、思わず小さく開いた口から答えるように名前を零した真帆の背後から、追い越すように誰かが駆けて行く。