「ほら、せっかく熱々のを持ってきてくれたのに冷めちゃうから。“店員さん”も、そろそろお店に戻った方がいいんじゃないですか?お友達が、さっきからずーっとこっち見てますよ」


真帆の言葉に、なぜかマスターだけでなく田辺も店の方に視線を向ける。
そこには、お客さんの相手をしながら、マスターに向けて目だけで必死に何かを訴えている男性の姿が。


「ああ、彼ね、人見知りなんだよねー。料理するのは好きだけど、お客さんの相手はものすっごく苦手なの。だからこその僕っていうお手伝いなんだけどねー」

「……わかってるなら早く行ってあげたらどうですか。泣きそうな顔してますよ」

「そうだねー、泣かれると困っちゃうしねー」


そう言って店の方へと戻っていくマスターに、真帆がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。


「そうそうキミ、もしよかったら今度うちの店においでよ。サービスするよー。ね?田中ちゃん」


不意に立ち止まって振り返ったかと思ったらそんないらん言葉を残して、真帆を硬直させた。