「田中さん、すぐそこのテーブル空いてるよ。そこにしよう」

「……私、もうちょっと向こうがいいな」


あまり店側に近いとマスターが会話に混じって来そうなので、出来るだけ離れたところに座りたかったのだが、田辺が先導するように先に立って歩き出してしまったので、仕方なく真帆はあとに続く。


「その焼き鳥ね、こっちの赤いのがブラックペッパーを効かせたトマトソースで、そっちの緑のがバジルソースだって。あとこれは、カプレーゼ。トマトとバジルとモッツアレラを使った前菜」

「……カプレーゼは知ってるから」


仮に知らなくても、見た目でわかる。
席につくなり、真帆が持っていた料理の説明を始めた田辺は、それが終わったところで自分が持って来たコップを一つ真帆に差し出す。


「ところで田中さん、さっきあの店員さんが言ってたお店って――」

「冷めないうちに食べないとね!せっかく温かいんだし」


田辺を遮って焼き鳥をひと串掴む真帆に、田辺はやや不満そうにしながらも、自分も串を一本取った。