「……聞いてませんよ、私」
「言ってないからねー。ああでも勘違いしちゃダメだよ、別に秘密にしていたとかそういう訳じゃないから」
じゃあどういう訳ですか、と問う真帆に、マスターは奥で調理中の男性を指差す。
「僕の友達。今回は、彼に頼まれてお手伝いに来ただけだからさー。仕事じゃないのに、田中ちゃんを呼び出すわけにいかないでしょ?予定もあったみたいだし」
ちらりとマスターの視線が真帆の隣に動く。もちろんそこには田辺がいて、先ほどから話に混ざりたげに真帆とマスターを交互に見ている。
「勘違いしないでください。この人は、そういうんじゃありません」
「そういうのってー?僕何も言ってないけど」
「言われなくてもわかります。顔に思いっきり出てますから」
この顔は生まれつきー、なんて言って笑いながら、あろうことかマスターは「ねー?」と田辺に話を振る。これで、必死に話に混ぜないようにしていた真帆の努力が無駄となった。
「田中さんのお知り合いですか?」
田辺の問いにマスターが答えるより先に
「仕事の邪魔しちゃ悪いし、別のところに行こう。ほら、あっちで焼き鳥売ってるよ」
真帆は田辺の興味をどうにか逸らそうと、目に入った焼き鳥屋のテントを指差す。