「これとか似合いそうだけど」


田辺が指差したブレスレットをちらりと見て


「……可愛いけど、着けていく場所もないし」


地元に戻ってきたとはいっても、そもそもこっちに残っている友人が少ないし、その数少ない友人達もほとんどが家庭を持っているため気軽に遊びに誘えないため、悲しいかな真帆はアクセサリーを買っても着ける機会がない。


「わかった。じゃあもっと俺と会う日を増やしたらいいんだよ!そうしたら着けていく場所が出来るよ」

「そういうことなら結構です」


ええー!と不満げな田辺を無視して、真帆は結局何も買わずに店を出る。
ぶーぶー言いながら後を追って店を出た田辺は、しばらく歩いたところで表情を一変させた。


「ねえ、次はあそこがいい!」


田辺が顔を輝かせて指差す先には、テントの屋根に“ドリンク(お酒あり)”の文字。
そこには、お酒を含む数種類のドリンクと、おつまみになりそうな軽食が売られている。
しかもこの店、隣に簡易テーブルと椅子で作られたイートインスペースもある。


「いらっしゃいませー」


田辺を出迎える店員の声に、辺りを見回していた視線を移動させた真帆は、目を見開いて固まった。
そんな真帆を見て、店員が「あれー」と声を上げる。


「田中ちゃん、やっほー」


そこにいたのは、真帆の現在の職場であるバーのマスターであった。