自分のせいで疲れさせてしまったとあれば断るわけにもいかず、真帆はこくりと頷く。それを受けて田辺は、真帆の腕を掴んだままベンチへと移動した。
腰を下ろすなり「ふいー……」と声を上げた田辺は、次いで立ったままの真帆を見て、自分の隣をとんとんと手の平で叩いて見せる。


「田中さんも座ったら?最初ちょっとお尻冷たく感じるけど」


うん……と答えてはみたものの、真帆は腰を下ろすことなく再度口を開く。


「何か飲み物買ってこようか。あっちにジュース売ってたし、そっちには自動販売機もあったけど」


“あっち”と“そっち”で逆方向を指差す真帆は、自分の背後にあたるキッチンカーの方はあえて見ないようにしているのだが、田辺にとっては真正面にあたるし、店名も大変わかりやすくなっているため、当然視線はそちらに動く。
コーヒーが飲みたいと言われたら、自動販売機に走っても不自然ではないだろうか。そんなことを考えながら、田辺の返答を待つ真帆。けれど田辺は、すぐにキッチンカーから視線を外して真帆の方を見ると「大丈夫」と答えて笑った。


「この人混みの中で、田中さんが戻ってこられなくなったら困るし」

「……いや、さすがにそれは」


“ない”と真帆が答えるより先に、「よし、休憩終わり!」と田辺がベンチから立ち上がった。