ありがたく受け取って地図を見ながら進むが、正直呼び込みの声があちこちからかかるので、ゆっくりと地図を見ている余裕がない。
それでも、お祭り特有のその活気も楽しみながら進んでいた真帆は、あるキッチンカーを視界に映して足を止めた。

“コーヒーのお店”、シンプルにそれだけが書かれた大変わかりやすいキッチンカー。車体には、コーヒーカップ、サーバー、ポット、コーヒー豆など、コーヒーにまつわるものが描かれていて可愛らしく、車をバックに写真を撮っている女性の姿もちらほら。
けれど真帆がその車を見て足を止めたのは、車体のイラストが可愛かったからではない。

漂ってくるコーヒーの香りにも、そのシンプルな店名にも、車体のイラストにも、覚えがあった。
記憶の底にしまい込んでいたものが、ゆっくりと引っ張り上げられる感覚。きゅっと唇を引き結んで、痛みそうになる胸を押さえ、足早に通り過ぎようとたとき、背後から腕を取られて真帆は飛び上がった。


「見付けた!田中さん」


驚きに見開いた目で勢いよく振り返ると、そこには息を切らせた田辺が立っていた。