その日真帆は、朝からいつになくそわそわしていた。
そわそわし過ぎて、朝食のパンを真っ黒に焦がすところから始まって、歯ブラシに洗顔をつけそうになったり、上だけ着替えて下はパジャマのままで出かけそうになったり、スマートフォンだと思ってカバンに入れたのがエアコンのリモコンで慌てて部屋に戻ったりと、まあ散々だった。

それでもようやく支度を終え、ガスの元栓を何度も確認し、施錠も何度も確認したところで、ようやく家を出る。
それでも、約束の時間まではまだ余裕がある。

そんなに余裕たっぷりの時間に、こんなにもそわそわしてどこに向かうのかといえば、駅前の公園。そこで、真帆は田辺と待ち合わせをしていた。
これまでにも何度も田辺と会っているので、それも悲しいことに偶然会うことが多いので、今更田辺と会うことに緊張することもないのだが、今回は訳が違う。

今回は、初めて真帆の方から田辺を誘っての待ち合わせだった。
いつもとは違うそのシチュエーション、ゆえにいつになく緊張している。
その緊張によって再び引き起こしたミスは、立ち止まる予定だったバス停を通過してしまったこと。