素直に、とまではいかないが引っ張られるままについてくる田辺をちらっと窺うと、先ほどの楽しみにしているような口ぶりが嘘だったように、珍しくその表情は曇っていた。
これまで、真帆のこととなると、嬉しそうな反応しか見せなかった田辺が。


「そういやあお前、顔の腫れ引いたんだな」


無言で引きずって歩くのもなんなので、ふと思い付いた話題を振ってみる。


「あんまりみんなが“酷い、酷い”って言うから、家に帰ってすぐ冷やしたんです。そしたら次の日当たりから徐々に腫れが引いて来て、今ではこの通りです」

「よかったな、一生戻らないなんてことにならなくて」

「恐ろしいこと言わないでください」


そもそも、なぜすぐに冷やさなかったのかというのは、愚問なので訊かない。
どうせ田辺のことだ、大丈夫だと思ったとか、面倒だったとか、そんな適当な理由が返ってくるだろうと想像がつく。


「でもまあ、もし顔が元に戻らなかったら、それこそ田中さんには責任取ってもらいますけどねー」


そう言った田辺の顔に、ようやくいつもの楽しそうな笑みが浮かぶ。
いつもの調子に戻ったならば、仕事もその調子で手早く片付けて欲しいと思ったのだが、その後も田辺のぼーっとタイムが時々挟まったことで、終電ギリギリまで仕事をするはめになった。
その間、岡嶋の怒鳴り声が数えきれないほど響いたのは、言うまでもない。