「おい、いい加減離せ。皺になるだろ」

「そしたら、年下の新妻にアイロンかけてもらったらいいじゃないですか」

「……だから、結婚してないって言ってるだろ!」


これが朝だったなら、岡嶋の大声は出勤してきた他の社員達にくすくす笑いのネタにされるところだが、今は夕方、それも定時を過ぎているので、目に付くところに人の姿はない。


「ていうか岡嶋さん、せっかく愛が深まったばかりなのに残業なんかしてていいんですか。いつぞや一緒にいたっていう同い年の男に取られません?」


引っ張っても、ぶんぶん降っても田辺は手を離さないので、岡嶋は諦めて掴まれたまま缶のプルタブを開けた。


「仕事は仕事だろ。それに、一緒にいたのはそもそも男じゃないそうだ」

「……はい?だって岡嶋さん、男と一緒にいたって」


遠目から見たとき、島田の隣にいたのは確かに男だった。けれどよくよく話を聞けば、あの時島田が一緒にいたのは同性の大学の友人とのこと。
この子だよ、と見せてもらった写真に写っていたのは、某歌劇団の男役がばっちりハマりそうな、女性だった。