「おいこら島田、危ないだろ」


隣を見れば、なぜかまた不貞腐れた表情の島田。


「雅功くんさ、さっきからなにそれ」

「……“なにそれ”って何がだよ」

「し・ま・だ」


頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる岡嶋に、島田の眼差しがきゅっと険しくなる。


「さっきは“美沙”って呼んでくれたじゃん。なんでまた名字に戻す」

「ああ……」


なんでと訊かれても、特に意味はない。先ほどは意図的に下の名前を口にしただけで、意識していなければやはり呼び慣れている方が口をついて出る。
だがそれを説明したところで、納得する島田ではない。


「美沙に変えてくれなかったら、外で雅功くんのこと“ダーリン”って呼ぶからね」

「……それ、恥ずかしいのはお前の方なんじゃ」

「雅功くんの会社の前で、でっかい声で呼んでやる!」


なんという脅しか。


「……善処はする」


島田なら本当にやりそうで、万が一にもそれを田辺に聞かれた日には、一生それをネタにからかわれそうなので、ここはそうならないように努力するしかない。
でもまあ考えてみれば、子供の頃は当たり前のように“美沙”と呼んでいたのだから、初めて下の名前で呼ぶよりはハードルが低いはずだ。