「まあそれはおいおい考えるとして、じゃあお湯が沸くまでの間、さっきの話の続きでもしようか」


丼をちゃちゃっと洗ってテーブルに戻ってきた田辺は、笑顔で真帆の向かい側に腰を下ろす。


「それで田中さんは、高校を卒業したあとはどこで何をしていたの?簡潔なのはもう聞いたから、今度は詳しくお願いね」


釘を刺されてしまった。それも笑顔で。
こうなると、言い渋っている方が逆によくないような気がしてくる。
もう少しヤカンとポットについて議論しない?と提案しようかとも思ったが、ここは逃げるよりも、かわしながらも進んだ方がいいと判断した。


「専門学校行ってから地元離れて就職したけど、今はこっちに戻ってきた」


もちろん、これで納得する田辺ではない。それで?と言わんばかりに笑顔で小首を傾げている。


「何を期待しているのか知らないけど、これ以上のものは出てこないよ」

「いやいや田中さん、まだ出せるよ。例えば、何系の専門学校に通っていたのかとか」

「製菓」

「違う田中さん、そうじゃない。いや、そうなんだけどそうじゃなくて、単語じゃなくてもっと会話的な感じが欲しいというかさ」

「……文句が多いな。ていうか、お湯が沸いてますけど」


ヤカンの口から、物凄い勢いで湯気が出ている。
立ち上がって急いでキッチンへ向かう田辺を、真帆は助かったという思いで見送った。