たくさんの言葉が、自分の中に渦巻く思いが、頭の中を回り回って一つの言葉に辿り着く。
“好き”なのだろうか。ずっと見守ってきた家族のような立場としてではなく、男として。

顔を上げると、こちらを見つめる島田と目が合った。
“決心”もしくは“覚悟を決めて”――ああ、あのカクテルの名前は何と言っただろうか。覚えているのはそのカクテルに込められた言葉と、砂糖とレモンの甘酸っぱさ、次いで喉を勢いよく滑り落ちて行ったブランデーの味。


「中々時間がかかったね、雅功くん」


そう言って、島田が嬉しそうに笑う。


「……時間?」


何のことかと問い返した岡嶋に、島田は笑顔で頷いた。


「あたしのことを、好きだって自覚するまでの時間」


島田のその言葉に、岡嶋は首を傾げる。


「自覚も何も、別に嫌いだと思ったことは一度も――」

「雅功くん」


言いかけた言葉を、島田が強めに遮る。眉間にきゅっと寄った皺を見て、ああそういうことではないかと岡嶋は理解した。
理解したら、急に恥ずかしさが込み上げた。