キッチンを出て部屋に入れば、島田は膝を抱えてちょこんとソファーに座り込んでいた。
なんとなく怒りのオーラを感じるため、同じソファーに座ってもいいものか、それとも離れているべきか迷っていると、そんな岡嶋の胸中を見透かすように顔を上げた島田が口を開いた。


「あたし別に怒ってないから」

「いや、怒ってるだろ」


間髪入れずに突っ込んだ岡嶋に、島田はふいっと視線を逸らしながら


「……怒ってはない。ただ、嫌な気持ちではある」


と呟いた。
嫌な気持ち?と疑問符付きで繰り返した岡嶋に、島田はそっぽを向いたままで返す。


「雅功くん、結構飲んだでしょ。いつもはそんな赤くなるほど飲まないのに、……あの人と、お喋りするのが楽しくてお酒が進んじゃったんでしょ」


あの人……?と呟きながら岡嶋は記憶を辿るが、アルコールの影響か、脳内がやたらごちゃごちゃしていて、途中から何を思い出そうとしていたのかがわからなくなる。
確かに、こんなことになるまで飲むことはそうそうないが、それは島田の言う“あの人”との会話が楽しかったのではなく、単純にマスターから最後に提供されたカクテルが原因だ。
それを説明しようと岡嶋は口を開くも、島田が遮るようにして続ける。