そうだろうか。時間が解決してくれない事だって、いつまで経っても馴染んでくれないものだって、あるんじゃないだろうか。
欠けてしまった部分はまだ苦しい程に痛いのに、この痛みがいつかなくなることなんて、あるのだろうか……。

納得しきれない真帆は、返事も出来ずに黙って食器を拭いていく。そんな真帆にちらっと視線を送ってから、マスターは手元に視線を戻してオーブンレンジを操作する。
拭き上げた食器を棚に片付けている間も、真帆は何も言えなくて、マスターも特に何も言わなかったから、店内にはオーブンレンジが稼働する電子音だけが響く。

なんだか少し気まずいので、お客さんでも来てくれないだろうかと真帆はドアの方を見るが、悲しいことに開く気配は感じられないし、時計を見れば、お客さんが来るのは望めなさそうな時間でもあった。
黙々と食器を片付けて、ついでにシンクも磨いてみたりなんかしながら言葉を探していた真帆に、マスターが「田中ちゃん」と声をかける。

真帆が顔を上げると、マスターが自分の向かい側、カウンター席を指差していた。
ざっとシンクを流して手を洗い、真帆は指差された席へとおずおずと腰を下ろす。