仕事が見つかるまでの穴埋めでも一向に構わないと、快く受け入れてくれたマスターには、友人が大まかに真帆が抱える事情を説明してくれている。
初めてこの店を訪れた時は、まだ戻って来て間もなかったこともあって、事情を説明してくれている友人の隣に、真帆は黙りこくって座っているだけだった。
自分のことなのに自分の口で説明しようとしないことを咎められるかと思ったが、話を聞き終えたマスターは真帆の方を見て、「お腹空かない?」と言ったことは、大変衝撃的な記憶として真帆の中に残っている。


「男性不信とまではいかないけど、男っていう生き物が総じて嫌いになっちゃったかなって思ってたからさー。でも、僕の思い違いだったみたいだね。いやあー、良かった良かった」


何が良かったのか、マスターは満足げにうんうんと何度も頷いている。


「やっぱり、時間が解決してくれることもあるんだよー。田中ちゃんは、元通りにはならないって言ったけど、別に元通りになる必要なんてないんだからいいんだよ。細かく砕ければ砕けるほど、破片をくっつけるのは難しいんだから。どっかしら欠けちゃって歪になってもさ、それもまた時間が解決してくれるんだよ。時間の経過と共に、その歪なところも不思議といい感じに自分に馴染んでくるからさー」