「お疲れ様ー、田中ちゃん。お客さんは無事に?」

「はい。大丈夫だって言って全然乗ろうとしてくれなかったので、最後はちょっと強引に押し込んじゃいましたけど」


岡嶋を乗せたタクシーが走り出すまで見送ったところで店内に戻ってきた真帆に、マスターがのんびりと声をかける。
大丈夫だと誇示するのでそれを無視して乗せるのも……と一瞬迷った真帆であるが、“無理矢理にでも押し込んで乗せてください”と頼まれている手前、ここで引くわけにもいかなくて最後は押し込んでしまった。
これで店にクレームでも入ったらどうしようかと思ったが、マスターは軽い調子で笑うばかりで気にする様子はない。


「その時はその時、何とかするよー。それに、僕の見たところあのお客さんは、そんなことでクレームを入れてくるようなタイプじゃなさそうだしねー」

「そうだといいですけど……」


岡嶋が座っていた席のグラスなどを片付けながら、真帆はぼそりと呟く。


「ああ、田中ちゃん、もう上がりでしょ?片付けは僕がやっておくからいいよー」


ちらりと壁の時計を見上げた真帆は、手元の食器に一度視線を落としてから、マスターの方を見た。