「じゃあ島田、帰り遅くなり過ぎておばさんに心配かけないようにな」

「あ、ちょっと雅功くん!」


島田の呼び止める声にも足を止めず、岡嶋は再び店内へと戻る。
その場に取り残されたのは、真帆と島田、そして少し離れたところにぽつんと佇む人物。
何か言うべきだろうか、だがこの場合何を?――真帆が考え込んでいる間に、島田の方が口を開く。


「ほんとはタクシーなんて呼んでないですよね」


え?と思わず漏らした真帆に、再び島田の視線が突き刺さる。
島田の目付きが悪いわけではないし、睨んでいるわけでもないのに、視線が突き刺さるように感じるのはなぜなのだろう。


「でも、あたしにはどうやっても送らせてくれそうにないので、ちゃんとタクシー呼んでください。大丈夫だって言うかもしれませんが、というか言うと思いますが、無理矢理にでも押し込んで乗せてください」


あたしには、近場でもタクシー使えってうるさいくせに……という呟きが微かに聞こえた気がしたが、真帆が何か言うより先に島田は小走りに待たせていた人物の元へと戻っていく。
それを呆けたように見送っていた真帆は、ハッと我に返って店に戻ろうとして、その途中で思い出したようにポケットのスマートフォンを取り出した。


「タクシー一台、お願いします。場所は――」