「……大丈夫ですか?やっぱり、もう少し休んでいかれた方が」

「ああ、いえ、あの、ほんとに大丈夫です。……むしろ、今のうちに家に辿り着いておかないと、時間が経つほど自力で帰れなくなりそうなので」


お酒には弱くないはずなのだが、やはり飲み慣れない酒が効いたのか、それとも一気に飲むという飲み方がよくなかったのか、岡嶋はマスターが出してくれたカクテルを飲んでから、体は暑いし頭はぼーっとするし、時折足元がふらつくしで、わかりやすく酔いが回っていた。
それでも自分の足で立って歩くことは出来るので、お勘定を済ませて店を出たのだが、心配した女性が外まで見送りに来てくれていた。
その女性が、田辺からよく話を聞いている“田中さん”だと知ったのはついさっき。世間が狭いとはこのことかと思わずにはいられない出会いだった。


「えっと……岡嶋さん、でしたよね。あの……今日私が話していたことは、その……田辺くんには」

「ああ、はい、大丈夫です。もちろん言いません」


ほっとしたような真帆の顔を見ながら、岡嶋は改めて、なるほどこれがあの田中さんか……と思う。