「お客さんのお知り合いは、そんなに嫌な方なんですか?」


女性からの問いかけに、岡嶋はしばし宙を睨んで考える。


「……嫌な奴かと訊かれれば、そういう訳でもないんですよね。たまに腹が立つ奴ではありますが」


仕事に関しては最早言うことはほとんどない。たまに細かなミスをやらかしはするが、指摘すればすぐに改善するし、同じミスを繰り返すこともない。
コミュニケーション能力も高いので、社内のみならず取引先からの人気も高い。

岡嶋に対してはふざけた態度を取りがちだが、それだって懐き過ぎているがゆえに素が出ているのだと一応わかってはいる。
わかっていても腹が立つものは立つのだが。


「顔が腫れあがる程叩かれて、自業自得だとは思いますが、ざまあみろとは思わないって言えばいいのか……。憎めないんですよね、……たまに腹が立つけど」


上手く言えないのは、岡嶋の中でも田辺を表すのに的確な表現が見つかっていないから。
苦笑しながらそこまで言ったところで、急に恥ずかしさが込み上げてきた岡嶋は、ぐいっとハイボールを煽る。
それを見ていた女性が、ふふっと小さく笑った。