「あの……うちのマスターは、これが平常運転なので。決して酔っ払っているわけではないので。もっと言うとたぶんマスターはザルなので、少なくとも営業時間中に酔っ払うことはないと思います」


ちらりと女性が横目にマスターを見る。その視線を受けて、どうやら声が聞こえていたらしいマスターが、「ザルだなんて大げさなー」とひらひら手を振った。


「ちゃんと飲めば飲んだ分眠くなってくるから、アルコールは回ってるよー!」

「……胸を張って言うことではないです」


同意の意味を込めて、岡嶋は深く頷いておいた。それを受けてマスターが、「悲しい気持ちになったから、ハイボールを飲もう」とよくわからないこと言いながら作り始める。


「ちょっとマスター、お客さんがいるんですから、自分の分だけ作るのはやめてください」

「大丈夫ー、ちゃんと二人分。あっ、飲む?三人分にする?」

「私は結構です」


二人の会話を聞きながら、ハイボールを注文した覚えはないんだよなー……と心の中で呟く岡嶋。けれど、そろそろ次の物を注文しようとは思っていたし、何が飲みたいというわけでもなかったので、まあいいかとグラスに残ったワインを飲み干した。