「なんでも経験ですからねー。積んどいてそんな経験はないよー」

「……なんでこっち見て言うんですか」


なんとなくーと笑顔で返されて、女性は訝しげにしながらも仕事に戻る。


「経験か……」


ぽつりと岡嶋が呟いたのは、女性が洗い物を終えて水道を閉めた時で、タイミングよく音のなくなったところに、岡嶋の呟きがよく響いてしまった。


「お客さん、何か積んでみたい経験でもあるんですかー?それとも、チャレンジしてみるかどうかお悩み中ですか?あっ、もう一杯いきます?」

「お願いします。あとなんか、もう少しつまみも」

「ポテサラいっちょー」

「……言い方、急にどうしたんですか」


全くである。急に目の前で大きな声を出すから、正直驚いた。


「彼女の作ったポテサラ、美味しいんですよー。うちの自慢なんです。さっきのお客さんには、自慢しそびれちゃったんですけどねー」

「やめてください、お客さんの期待値上げるの」


そう言いながら出されたポテトサラダは、マッシュポテトの中に角切りのじゃが芋とキュウリ、それからハムが入っていて、黄身が半熟のゆで卵も添えられていた。