カウンターの向こうから腕を伸ばしてテーブルを拭いて、コースターまでセットされたら、もうそこに行くしかない。
岡嶋がカウンター席に腰を下ろすと、間髪入れずに向かい側からおしぼりを手渡された。
いつの間にそこに?という素早さで、女性がカウンターの向こうに立っている。


「何飲まれますか?」

「あっ、えっと……」


居酒屋であればとりえずビールだが、せっかく雰囲気のあるお店に来ていてビールというのも……と岡嶋は迷う。
ビールを軽く見ているわけではないが、とりあえずでビールを頼むような店ではないので、頼みづらさがある。
ほかほかのおしぼりで手を拭きながら考えていると、マスターがなにやらしゃがみ込んでがちゃがちゃやり始める。かと思ったら、すっと立ち上がった時にはボトルを手にしていた。


「さっきのお客さんには出しそびれたんですけど、実は今日新しいワインを仕入れてたんですよー。よかったらどうですか?」


お酒は割と何でも飲めるタイプなので、岡嶋は「じゃあそれで」と勧められるままに注文する。
マスターがにこにこしながら封を切っている間に、女性がグラスを用意する。更に、「お先にこちら」と出されたのは、チーズとオリーブの盛り合わせだった。