「あれ……さっきまでいたお客さんは?」


その客の姿がない店内を見回して、女性が驚いたような声を上げる。


「ああ、あの人達ねー、隣の店にカラオケしに行ったー。やっぱりうちにもカラオケ導入しようかなー。どう思います?」

「ど、どうって……俺に訊くんですか?」


スタッフの女性ではなく、本日初見でこの店を訪れた岡嶋に向かって、マスターが首を傾げながら問いかける。
緩いウェーブのかかった茶髪のおかげで見た目がとても若々しいマスターだが、実際のところは幾つなのか。年下っぽくもあるが、ふっと笑顔を引っ込めた瞬間なんかは大人の色気があって、年上っぽくも見える。若いことは間違いないのだろうが、年齢不詳だ。


「よかったらカウンターどうですか?」


黙って立ち尽くす岡嶋に、席選びで迷っていると思ったのか女性がカウンター席を指し示す。しかも、マスターの目の前の席を。


「あ、ここ来ますー?お客さんしかお客さんいないのにテーブル席とか行かれちゃうと寂しいですからねー。どうぞー」