「訊いたらいいじゃないですか。もしかして浮気してる?って」

「なんだ浮気って。そもそも付き合ってないって言ってるだろ」

「あっ、結婚されたんでしたっけ?」


茶化したら許さないと先に言っておいたはずなのだがこの男……。


「お前のその顔、反対側も腫れさせてバランスよくしてやろうか?」


田辺が、腫れていない方の頬をさっと両手で隠して「パワハラだ!」などと言う。


「今は昼休みだ。業務外だから適用されない」

「いやいや、横暴ですよ。なんなら、家を出た瞬間から業務は始まっていて、家に帰り着くまでが業務中だとすら思ってますから」

「へー、お前がそんなに仕事熱心だとは知らなかった。俺が担当してる案件、二つ三つ分けてやろうか?」

「それとこれとは話が別です。でも、ご要望とあればサポートはしますので任せてください」


先ほども聞いたサポート宣言に岡嶋はため息を返しながら、水を一口。それを見た田辺が、突然すっと立ち上がった。


「岡嶋さん、あったかいお茶飲みますか?」


質問しているくせに、答える前に動き出すのが田辺という男だ。そして岡嶋はまだ何も言っていないのに、目の前には湯気の立つ湯呑が置かれる。


「セルフなんで、もっと飲みたかったらあそこにおかわりしに行ってください」


“あそこ”と指差すので一応視線を向けて見たら、ボタンを押して飲み物を出す、セルフサービスでよく見るタイプの機械があった。