気付かれる前に帰るかと思うものの、なぜだか手はエンジンをかけようとしないし、目も島田と一緒になってきょろきょろと辺りを見回してしまう。
わかっている。帰るかなんて思うのはただの建前で、本当は島田の待ち合わせ相手が気になるのだ。

少し前まではそんなことはなかったのに。島田が誰と飲みに行こうと、休日に誰と遊びに行こうと気にはならなかったのに、なぜだか近頃はそうもいかない。
具体的には、島田と何かあったかもしれない夜のあとから、島田が“結婚、結婚”と何度も言うせいかもしれないけれど、今まで気にならなかったことが、気になるようになってしまった。

待ち合わせの相手は誰だろうかとぼんやり考えながら島田を眺めていた岡嶋は、隣の車に人が乗り込む音にハッとして我に返る。
一体自分は何をやっているんだと、思わず深いため息を漏らした時、慌てたように駐車場を駆ける人物の姿が目に留まった。

悪天候ならいざ知らず、風が冷たいこと以外は穏やかな天候の日に、何をそんなに急いでいるのか、車と車の間を息を切らせて走って行く。
なぜだかその人物の行く先が、とても気になった。