そこに、注文していた料理が運ばれてきたため、一旦話が中断される。田辺は構わず話し続けようとしたのだが、岡嶋が目で圧力をかけて黙らせた。


「俺の親子丼一口あげるんで、岡嶋さんのカツ丼も一口ください」

「お前、カツ丼はこの前食べたって言わなかったか?」

「でも見てたら食べたくなりました」


まだいいとは言っていないはずなのに、「どーぞ」と田辺が丼を差し出してくる。


「あのな、いい年した男二人が回し食いって」

「岡嶋さんって、やたらと年齢を気にしますよね。別に年なんて気にしなくていいと思いますけど」


思わず黙ってしまった隙をつかれて、「もーらいっ!」と田辺にカツを一つ持っていかれる。それも端っこの方ではなく、真ん中に近いいいところを持っていくあたりがやはり田辺だ。


「岡嶋さん、また変な顔してますけどどうしたんですか?」

「……別に、なんでもない」


カツを持っていかれた腹いせと、気にしていることを言い当てられた悔しさを込めて、岡嶋は一番鶏肉の大きいところと、玉子が美味しそうなところを器用に箸に乗せて、零れないうちに口へと放り込む。
出汁の効いたとろとろ玉子と、香ばしい鶏肉が合わさった親子丼はとても美味しいのだが、胸がモヤッとするせいで心から味わえないのが残念でならない。