「両親に挨拶に行くより先に、田中さん本人から承諾は貰ってるのか?」

「いえ、まだ。でも大丈夫です!俺別に、結婚を急いでいるわけではないので。恋人同士の期間っていうのも、大事だと俺は思うんですよね。そこで、お互いを知っていけるじゃないですか。あっ、別にスピード結婚を否定してるわけじゃないですからね」

「……そもそも、付き合ってるのか?」


岡嶋の問いかけに、


「気になります?」


田辺が楽しげに笑って問い返す。
そういうところが、思い切りよく叩かれるほどの怒りを買う原因なのでは?と思ったが、面倒くさいので岡嶋は言わずにおいた。


「別に気にはならん。お前が痴情のもつれで問題起こさなければそれで」

「その言い方だとまるで、俺がその手の問題を起こしそうな奴みたいじゃないですか」

「いつ起こしてもおかしくないとは思ってる」

「うわー、岡嶋さん酷い」


そろそろ時間かと腕時計を確認したところで、岡嶋は残っているコーヒーを飲み干しにかかる。
そんな岡嶋に合わせて急ぐこともない田辺は、のんびりとココアを飲みながら「ところで」と無遠慮に岡嶋の顔を指差した。


「岡嶋さんはどうしたんですか?その目の下のクマ」


田辺の腫れあがった頬ほど目立ちはしないけれど、岡嶋の目元にも、割とくっきりと寝不足を示すクマが刻まれていた。