「……田辺くんさ、私から離れたところに座ってなかったっけ?話聞こえてたの?」

「あれ、気付いてなかったの?最初は確かに一番離れた席にいたけど、最終的には後ろの席にいたよ?」

「え、こわっ」


思わず漏れた本気で引いたような声に、田辺が慌てたように続ける。


「いや、違うから!田中さんをつけ狙ってたとかそういうのじゃなく、不可抗力っていうか。色んな人から、こっちのテーブルにも来て、次こっち来てって呼ばれて顔出していくうちに、気がついたら田中さんの近くまで行ってただけだから」


必死に否定されると逆に怪しいとはよく言ったものだが、その時の田辺と真帆は今のように向かい合ってご飯を食べながらお喋りするような間柄ではなかったから、高校の時の延長戦のように、顔と名前を知っているだけのただの元クラスメイトだったから、きっと田辺の言っていることは本当のことなのだろう。
ただ、必死過ぎて怪しいというだけで。


「とにかくそういうわけで、田中さんと田中さんのお友達との会話が、俺にも聞こえてたの!言っておくけど、聞き耳立ててたわけじゃないからね。田中さんの友達、声大き過ぎ」

「何も言ってないじゃない」

「どうせこれから言う予定だったでしょ」