「あの日、泣きながら抱き着いて来た田中さんを拒否しなかったってのは、責任を取るには充分な理由でしょ?」

「……仮に私が抱き着いたとして、それを抱きとめたってだけなら、責任問題にはならないと思うけど」

「抱きとめただけならね。もちろんそのあと優しく抱きしめたでしょ。そしたらもうその流れで……ね?」


こっちを見てにっこり笑うな。


「ていうかさ、前にも言ったような気がするんだけど、もういっそこの機会に俺と新しい恋愛をしてみようという気にはならないの?」

「ならない」


若干被せ気味に、真帆は即答する。


「ええー、なんで?田中さん今フリーでしょ。好きな人とかいないでしょ。じゃあいいじゃん」

「全然よくない。ていうか、フリーなのはいいとしても、好きな人がいないかどうかは勝手に決めるな」

「だって実際いないでしょ?同窓会の時言ってたじゃん」


言っただろうか……確かに、隣の席の友人から旦那の愚痴と見せかけた惚気話を聞かされた流れで、「真帆は最近どうなの?」という話を振られたような気がしないでもないが、その時この男はどこの席にいた……?