「俺がうま過ぎて、田中さんの体に違和感が残らなかっただけかもよ?それか、相当酔っ払ってらしたから、その気持ち悪さに相殺されちゃったとかね」


前者についてはノーコメントにしておくが、後者については、そんなことはないと言い切れる自信はない。
確かにあの日真帆は、相当酔っ払っていた。なにせ、途中から記憶が残っていないのだから。


「田中さんは往生際悪くも、あの日のことをなかったことにしたいんだよね。でも俺はそんな田中さんにこの言葉を送るよ。“現実から目を背けてはいけない”」

「……鬱陶しい」


真帆の唸るような呟きなど、田辺は気にも留めない。


「俺は男として、あの日の責任はちゃんと取るつもりだよ。たとえ抱き着いて来たのが田中さんの方だったとしても」

「ちょっと待って、え……抱き着いた?私が?」

「そう、しかも涙でぐしゃぐしゃの顔で。落ちかけた化粧もそのままに。時々気持ち悪くなるのか何度かえづきながら……」

「そういうリアルな話はいらない」


でも逆に考えれば、リアルに語れるということは、それは真実であると言うことになるのだろうか。
田辺がどれほどの想像力を持っているのかを真帆は知らないので、リアルな話なのか、それともリアルに見せかけた創作なのかがまるでわからない。