“美味しいよ”という言葉と、嬉しそうな笑顔のために。
浮かんできた懐かしい笑顔に、“真帆”と呼ぶ声に、胸が苦しくなって、真帆は堪らずぐっと表情筋に力を入れる。

気を抜くと、思い出して泣いてしまいそうだった。
こんな風に、ふと思い出しては胸が苦しくなったり、泣きたくなったりするのは、未だに吹っ切れていない証拠なのだろうか。
まあそうなのだろう。田辺曰く、寝言で名前を呼んでしまっていたらしいし。


「ていうかさ、田辺くん」

「ん?」


スプーンを咥えたままというお行儀の悪い状態で、田辺は首を傾げる。
その緊張感のなさに乗っかるように、真帆もオムライスの山をスプーンで切り崩しながら続けた。


「この間の、同窓会のあとのこと、なんかあったのなんだのって言ってたやつ、全部嘘だったんだよね」


ぱくりとオムライスを口に入れてから顔を上げたら、スプーンを口から抜いた田辺が、にっこり笑顔で「何でそう思うの?」と。


「いや、色々冷静になって考えてみたらそうだよなって。あの日起きた時、飲み過ぎの気持ち悪さとかはあったけど、事後の感じはしなかったし」


もう少し言葉を選ぶべきだったろうか、直接的過ぎたか?と言ってしまってから思ったが、今更である。