「美味しいね」


笑顔で田辺に問いかけられ、真帆はオムライスに向けた視線を外すことなく「そうだね」とぼそっと答える。
素っ気ない真帆の返事にも、嬉しそうな笑みを浮かべながら、田辺はオムライスをもう一口。


「田中さん、せっかくだからスープも一口頂戴よ。俺の、先に飲んでいいよ」


まだいいとは言っていないのに、田辺は笑顔で真帆の方に自分のスープの器を押し出す。それを真帆が無言で眺めていると


「あれ、ひょっとして田中さんって回し食いとか出来ないタイプ?潔癖症?」

「別に、そんなんじゃないけど……」

「あっ、じゃああれだ、俺との間接キスを想像しちゃって――」


田辺のにやついた顔と声が腹立たしかったので、真帆はガシッと器を掴んで勢いに任せて一口飲む。
あさりの出汁が効いたクリームスープはとても美味しいのだが、顔を上げた瞬間目に入った田辺の楽しそうな顔がムカついて、真帆は仏頂面で器を返す。


「田中さんってば、初々しいなあ。今時学生でも間接キスで狼狽えたりしないよ?」

「別に、狼狽えてませんけど」

「まあしょうがないか、田中さんはこういうことに慣れていらっしゃらないから」

「だから、狼狽えてないって言ってるでしょ!」