「それでえっと、なんで俺の顔がこんなことになっているのかって話をしてたんでしたっけ?」

「いや、そんな話はしていない」

「ええー、してましたよ。だって岡嶋さん、“どうしたんだその顔”って訊いたじゃないですか」


わかっているなら訊くなと言いたいが、面倒くさいので岡嶋は黙って缶のプルタブを開ける。


「それでこの顔なんですけど、田中さんにそれはもう盛大にぶっ叩かれたらこうなりました」

「なるほど、お前の笑えない冗談が遂にバレてぶち切れられたか」


真っ赤になって腫れるまでいくあたり、相当の怒りが込められているとみえる。


「違いますよ。ていうか、なんですか笑えない冗談って。俺はいつだって真剣ですよ」

「真剣に、笑えない冗談をかましてるんだろ。それが一番タチが悪い」

「うわあ……失礼」


田辺のジト目を無視して、岡嶋はちらりと腕時計に視線を落とす。始業開始まではまだ時間があるが、田辺のペースに飲まれたが最後、出勤しているのに遅刻という間抜けな展開になりかねないので注意が必要だ。