「いやあでも、岡嶋さんが遂に結婚か……。このまま定年まで、仕事が恋人の寂しい独身生活を送られるのかと心配していたので、俺としても嬉しい限りです」

「……お前ほんと、いい加減にしろよ」

「それ、田中さんにもよく言われるんですよね。“いい加減にしろ”って。あれ、考えてみたら岡嶋さんと田中さんって、どっか似てるかも」


この男に気に入られるとは、可哀そうに田中さん……と、会ったことのない田中さんを憐れに思う岡嶋。
田辺は、見た目は悪くないし人当たりもいいので女子社員からの受けは大層いいのだが、外面が剥げればこの調子なので、岡嶋に言わせれば優良物件とは言い難い男である。


「二人が似てるっていうことは、岡嶋さんに響いた台詞はイコール田中さんにも響くってことですよね!ちょっと試してみてもいいですか」

「いいわけあるか」


この男はここに置いていきたいのだが、「二名様ですか?」と問いかける店員に「はい!」と元気よく答えられてしまい、岡嶋は田辺と二人で店内に通される。
カウンターはいっぱいで、空いているのは一番奥のテーブル席。腰を下ろすより先に水を持って来た店員に、岡嶋はメニューを開くこともなく新メニューを注文した。
注文してから、田辺のことをすっかり忘れていたことに気が付いたが、「俺も同じので」と答えていたので問題はなさそうだ。