「そういうの、会社でもやってるの?」

「そういうの?」

「ドア押さえててあげる的な」

「出入りのタイミングが合えばな。人がいるってわかってて閉めるのも感じ悪いだろ」


それはそうだが、あまりライバルを増やさないでいただきたいというのが島田の本音。


「そういう些細な優しさにキュンとする人もいるからね」

「いるからなんなんだ?」


たとえライバルが増えようとも、この鈍感さに耐えられるのはきっと自分だけだと島田は思った。
仮に島田に負けないくらい我慢強い女性が現れたとしても、ぽっと出の我慢強さなんかに負ける気はしない。どれだけ長く、この男の鈍感さと向き合ってきたと思っているんだ。


「あれ……家の鍵も持ったと思ったのに、車の鍵しか持ってなかった」


鍵を閉めようとして鍵がないことに気が付いたようで、岡嶋は「ちょっとこれ」と島田に車の鍵を預け、家の中へと戻っていく。
閉まっていくドアに手を伸ばし、今度は押さえる係に回った島田は、何気なく預けられた鍵に視線を落とした。

岡嶋の愛車の鍵には、島田が高校の卒業旅行でお土産に買ったキーホルダーがぶら下がっている。
それを見たら、ふっと口元が緩んだ。