「……いや悪い、待った。やっぱ今のなし」

「なんでよ」

「いやその…………」


天井を向いたままでそこまで言って、ようやく岡嶋は視線を下げる。


「……鬱陶しいだろ、ただの幼馴染みにそんなこと言われたら」


ああ、まただ。また彼は、“幼馴染み”という言葉で、自分を律している。何かを、抑え込んでいる。
岡嶋の鈍感さから考えて、わかってやっているというよりは、無意識にやっているような気がするが、家族ではないけれど家族のように近しい存在、“幼馴染み”という関係性に、とても縛られているように島田には思える。

その証拠に、表情にだって迷いが見える。
こういう時、島田はいつも思うのだ。いっそのこと、幼馴染みではなかったらよかったのだろうかと。

例えば、岡嶋がただの大学の先輩だったら、同じ会社で働く上司だったら、もっと素直に好きなら好きと言えただろうか。他の男の人と一緒にいると不安になると、言ってもらえただろうか。
そんなもしもを考えてみるけれど、結局は、やっぱり今の方が、幼馴染みの方がいいかなというところに落ち着く。