「近くにいたなら声かけてくれたらよかっただろ」

「雅功くん一人じゃなかったし、こっちも友達と一緒だったから」


両手で抱え込むようにカップを持って、視線はテレビに向けたまま、島田は答える。
視界の端には、こちらを見ている岡嶋が映っていた。


「……それで、あの人は誰」

「会社の先輩」


ここで悩む素振りを見せたり、言い淀んだりしたらどうしようかと思ったが、岡嶋の返答はすぐに、それも淀みなく返って来て、心配は徒労に終わった。


「へー、先輩」


ここでようやく、島田はテレビから岡嶋へと視線を移すことが出来た。


「忘年会だったんだよ。車で行くと帰りに乗せろって言われそうだったんで、バスで行ったら早く着き過ぎてな。そしたら同じく電車で早く来過ぎた先輩と会ったってだけだ」

「シーズンだもんね」


他人事のように言っている島田も、大学の友人と高校の友人とそれぞれから忘年会のお誘いが来ている。


「で、それがどうかしたのか?」


訊くのか、それを。訊かなければわからないのか。