「なんか、やたら甘い匂いがした」


岡嶋のその呟きに、島田は止めていた足を動かして、岡嶋の元へとカップを運ぶ。


「じゃん!美沙の特製ココアです」


島田がテーブルに置いたカップを覗き込んだ岡嶋は、「ココア……」と零してしばし固まる。


「雅功くんの脳みそは、今物凄く甘い物を求めてると思うんだよね。だから、マシュマロ入りの特別仕様です」


島田に促されるままカップを持ち上げた岡嶋は、一口飲んで「甘いな」と呟く。それから、一呼吸おいてもう一口。


「珍しくちゃんと味のするココアを淹れられたんだな」


笑みを含んだ岡嶋の言葉に、島田は自分のカップに息を吹きかけるのをやめて膨れてみせる。


「失礼な。いつだって一応味はしてます」

「“一応”な。でも薄過ぎてココア風味のお湯だろ?」


それは確かにそうなのだが、そしてその反省を生かそうとして淹れると、今度は粉を入れ過ぎて歯が痛くなりそうなほど甘いココアが誕生してしまうのだ。
岡嶋は可笑しそうに口元を緩めながらココアを飲み、その度に「うん、甘い」と小さく零す。