「今晩のおかずに悩んでるんだとしたら、あたしグラタンがいい」


そんな平和な悩みではないし、なぜ晩ご飯を食べていく気でいるのか謎だ。


「晩飯食ったら、そのまま何だかんだ言ってまた泊まろうとするだろ。だから晩飯前には絶対に送る」

「未来の奥さんに向かってなんともケチなことで」

「みらっ……!?」

「ていうかあれでしょ、結局昨日何があったのかはっきりしないままにしておくのはどうなんだって悩みでしょ?悩むくらいなら、“俺が責任取るから任せろ!”くらい言ってほしいところだけど」

「……そんな簡単な問題じゃないだろ」


いやでもよく考えたら、島田はそれでいいと言っているのだから、岡嶋がビシッと覚悟を決めればそれで済む話なのかもしれない。
まあ、記憶のない状態で覚悟を決める勇気がないから、こうなっているわけなのだけれど。


「雅功くん、あたしはね」


悩み過ぎてさっきから思考が同じところを何度も何度もぐるぐる回っている岡嶋に、島田は真っすぐな眼差しを向ける。
それは、岡嶋よりもよっぽど覚悟の決まった眼差しだった。


「岡嶋 美沙になる覚悟は、とっくの昔に出来てるよ」


その潔さを、少しでいいから分けて欲しいと岡嶋は思った。