「まあ、それはそうなんだが……。でもな、ほら、わかるだろ?」

「残念ながらわかりません」


そう来るとは予想していたが、それにしたって少しくらい考えてくれてもいいのではないかと思うくらい、島田の返答は早かった。


「ていうかさ、雅功くんはそんなにも世間体を気にするけど、あたしに言わせれば今更だよ。だって考えてもみなよ、あたしという女子大生が夜中に男一人暮らしの部屋に訪ねてきている時点で、ご近所さんから見たら充分噂の対象だよ?」


岡嶋は一瞬固まったのち、言葉もないままただ大きく目を見開いた。


「最早日常になり過ぎてなんとも思ってなかったでしょ。雅功くんのところに遊びに行くのなんて、子供の頃からやってることだしね」


島田の言う通り、そこに関しては日常の一部過ぎて失念していた。
訪ねてくる時間帯が夜中というのは、岡嶋が一人暮らしを始めてからのことだが、訪ねてくること自体は、島田の言う通り子供の頃からのことなので、なんとも思っていなかった。

休みの日に惰眠を貪る息子に構うことなく、母親が島田を家にあげ、そればかりか息子の部屋への入室も許可するので、起きたら部屋に島田がいるなんてことも珍しくなかったから。
岡嶋は、目を見開いた次は額に手を当てて俯く。