ため息と共に箸を掴み直し、丼に差し込んだところで、岡嶋の中にふと疑問がよぎる。
結婚は一生の問題だ。そりゃあ人生で一度だけと決まっているわけではないけれど、それでも一生の問題と捉えてもいいくらいの重みはあるはずだ。

ましてや島田はまだ大学生。将来の夢や目標の類を聞いたことはないが、きっと何かしら持っているはずだ。
そうであれば、岡嶋よりもっと“結婚”ということについて、重く受け止めてもいいはず。

それなのに、あまりにもすぱすぱと話を進め過ぎではないだろうか。普通は、もう少し焦ったり、戸惑ったりしないものだろうか。
そうだ、考えてみれば島田のこの落ち着きようはあまりに不自然だ。昨夜、そういうことがあったにしては。

熱い熱い、でも美味しい。とラーメンを啜る島田を、岡嶋はジト目で見つめる。
冷静になって考えてみれば、色々と、とんでもなく怪しい。


「なあ島田、今ならまだ長めのお説教で許してやるぞ」


ずるずると麺を啜る音が、その瞬間ぴたりと止む。
テレビの方に真っすぐ向けられた視線は、きっと向いているだけで、流れる番組を観ているわけではない。